滋賀県の月刊情報誌から「次号から滋賀県内の気になるスポットを訪ねる連載をやってほしい」との依頼を請けた。
ラジャー!
というわけで第一回目の取材で彦根市へ。
以前から「2階に大きな動物がいる」というウワサを耳にしていた、とある果物屋さんを訪ねた。
商店街に辿り着き、道路を隔てて店を観てみたところ……、
確かにキリンらしき生き物が立っているような気が。
あと、しまうまのおしり、らしきものも垣間見える。
2階に上がる階段に、こんなプレートが。
「
二階でダンボールアート開催中!! ご自由にどうぞ」
ダンボールアート……。
2階からチラ見してるあの動物たちは、ダンボール製だったんだ。
てっきり、はく製だとばかり。
そして入場自由で無料のギャラリ-だったとは。
インタビューさせていただこうとお店へうかがうと、「(ダンボールアート作品を造った)主人は午後6時以降に帰ってくるので、それ以降にもう一度来てほしい」とのこと。
▼店頭にも、サイズこそ小さいが、いたるところにご主人のお手製アニマルズが。
日が暮れた頃に再度おうかがいした。
ドアの足元には、緊張感がいや増す警告文が……。
猛獣の出現におそれをいだきつつ、薄暗い一室へ足を踏み入れると、
いたいた!
高さ2メートルを超える巨大なキリン、シマウマ、さらにアフリカ象!
ライオンも、そして件のワニも! その数およそ100体!
なんてことないフルーツショップの二階で突然!段ボールの動物園、出現。
そのあまりに唐突な抑止園力におののきながら、59歳になるご主人にお話をうかがった。
「果物屋ですから、毎日とにかく段ボール箱がたくさん余るわけです。これをつぶして再利用し、作品にしています。このキリンは3ヶ月くらいでできあがったかな。30箱以上は使ってますね。表面にごく普通の水彩絵の具で、筆を使って色を塗って。顔の表情とか、脚のシワとかを表現するのが難しくてね。京都の動物園へ通って、ずーっとキリンばっかり見て、頭に叩き込んでね」
とてつもなく大きく、どっしりとし、色あいも実にリアリティがある。
しかし材料は、使い古しの段ボール箱と市販の水彩絵の具。
小学生の工作と、なんら変わりない。
ちなみに芸大・美大に通ったことなどなく、工芸を習った経験も一度もなく、学生時代も工作や美術は得意ではないし興味もなかったというから驚く。
そんなご主人がダンボールアート制作に目覚めたのは40代半ばと遅咲き。
きっかけも、ひょんなことだった。
「同級生が大きな信楽焼の花器を買いましてね。これが羨ましかった。『僕も欲しいなあ』と。普通なら『僕も買おう』と思うもんなんでしょうが、なぜか僕は『
じゃぁ、作ろう』
と(笑)。工作なんて生まれて初めての経験でしたが、なんせ20年以上、朝から晩まで仕事で段ボール箱を扱ってますからね。紙の“目”の特徴も知ってるし、硬くも柔らかくもなる便利な素材やということが肌に沁みついておったんですな。それで、想い描いていたものができあがったんです」
段ボールデビューした作品が「信楽焼……のような壺」。
琵琶湖の砂をまぶし、信楽焼独特なアーシー感を演出。
釉薬のかわりにニスを塗り、遠目には焼き物そのものだ。
以降、興味は静物からしだいに動物へ移っていったのだとか。
現在はかつて喫茶店だったという2階をアトリエ兼ギャラリーとして、一般開放。
テーブルも椅子も、さらに彦根名物のボードゲーム「カロム」も段ボール製。
子供たちが学校帰りに、ここで遊んで帰るのだとか。
しかしこれほどの大作、「展示させてほしい」という自治体があるのではないだろうか?
「そういうお声もいただきますけど、お断りしています。なんせ大きすぎて、
部屋から出せない(笑)。動物を壊すか、店を壊すかしないと、外へは運べません。この動物たちは、
ここに来る以外、観ることはできないんです」
彦根市のはずれ、古びた商店街の一隅に、ここに来ないと観ることができない至尊な芸術空間があった。
日本の商店街のあちこちに、こんな「我が街の日比野克彦」みたいな、無意識の造形作家たちがいるんだろうなあ。
ちなみにこういった段ボール箱再利用のアート作品が果物の売り上げに貢献することは「まったくない(苦笑)」とのこと。
吉村智樹事務所
http://www3.to/tomokiymail
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