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2013-01-05-Sat-17-03

転がらない石のように

悩みの森へ足を踏み込むことをおそれるな。
暗くうっそうとしてはいるが、足元には、きれいな石が落ちているはず。

ケーブルテレビで毎週やっていたグルメリポーターの仕事が、番組終了に伴い、12月でなくなってしまった(涙)。

グルメリポートと言っても構成作家の僕にお鉢がまわってくるくらいだから、タレントさんにはさせられないような大食いfeat.ゲテモノ系。
たて続けにあまじょっぱい油揚げがたんまり載った大盛りラーメン2杯をたいらげたときは、手足の指先の震えと悪寒がとまらなった。

体力的には限界だった。
これ以上グルマンぶっていると内臓がワヤになってしまうので、潮時を感じてはいた。
引退する松井の気持ちがよくわかった。
むこうは、僕の気持ちは微塵もわからないだろうが。

とはいえ、仕事がなくなってしまうと、とたんに花柳……じゃなく“減収”というゲテモノを大食いせねばならなくなる。
具体的に言えば、このリポート仕事が消滅するため、うちは新年早々から6万円の収入カットでスタートすることが決定している。

6万円はデカいよ。
ガス、電気、水道、プロバイダ契約料、健康保険料、足すとおよそ6万円。
つまり僕の命の値段だ。

物書きの仕事で補填できればよいが、このご時世、なかなかシュガーレス。
執筆だけで月に6万円を取り戻すことは現実「ありえへん世界」と断言していい。

ありがたいことに新たにいただけた月イチの新連載も、原稿料は8000円。
補填にはほど遠い。
さらに1万円で請けていた連載も、夏以降媒体からニンともカンとも指示がない。
出版社のホームページにも次号の発売予定が掲載されていないので、わずか2号で、どうやら天に召されたようだ。

新規の仕事に巡りあえるチャンスがあるとすれば春の新装および改編の時機。
が、数メートル先にいる待ち合わせ相手に30分も出会えなかった(←最近の話)僕に、そんな幸福なマッチングがかなう保証はどこにもない。
朝起きたらなぜか村上春樹になっていたような神のケアレスミス(吉村智樹と間違えて)でもないかぎり月に6万円を取り戻せることはないだろう。

そういうわけでバイト探しを始め、「一週間ぶっ通しで午前中、下鴨茶寮の皿洗い」という、グッドジョブを見つけた。
うちから徒歩圏内だし、自腹じゃ絶対に行けない高級料亭の裏側を取材することもできる。
しかしながら、午前中にはずせない定例会議があったため、かなわなかった。
嗚呼、タイム・イズ・マネー、パートタイム・ラヴァ―。
「夢は時間を裏切らない。時間も夢を決して裏切らない」なんてケミストリー(化学反応)は起きなかったなあ。
もっとも実際にやり始めていたとて、銘のある皿を割ってしまい、ロハ働きどころか借金をこしらえていたかも。
いまでも『マネーの虎』が放送されていれば、プレゼンしに行くんだけど(ちなみにあの番組で出資していた“虎”たちの多くは、のちに倒産、自己破産している)。

そんなふうに、浜田省吾があいつの足元に叩きつけたBIG MONEYがどっかに落ちてないもんかと探し歩くような猫背暮らしをしている僕に、拾う神が甘い言葉を囁いた。

「ええ儲け話がおまっせ」と。

先日、“京都の台所”と呼ばれる錦市場で、四代続く老舗の八百屋さんを取材した。
インタビューをさせていただいたのは、会長の奥様。
社長夫人よりさらに偉い人で、言わば「にしきのぬし」と呼ぶべきゴッドママ。
とはいえ現在もかわいいエプロン姿で店頭に立ち、笑顔で接客をしている。

生き馬の目を抜いておばんざいにするような京料理の激戦区で80年も商売をやっている八百屋の、さらに屋台骨をささえてきた半生。
さまざまな人々の栄枯盛衰を視てきた人だ

そんな台所の女王が、僕の不安な心を仏眼で見透かしたかのように表情を変え、こう言った、
「兄ちゃん、自由業はしんどいやろ。漬物屋やり、漬物屋」。

漬物屋?
なんで僕が漬物屋を?
いまの仕事の“塩漬け”ぶりを見抜いてのことか?

そうではなく、奥様曰く「漬物がこれからクる。しかも儲かる」のだそう。
なんでも、商品としての漬物は原価率が低く、相場が存在せず、おいしい野菜さえ入手できれば値段は売り手がいくらでもつけ放題なのだとか。

僕はそう簡単には納得できず、「でも京都はもともと漬物屋がたくさんあって、老舗もごろごろあるし、新規参入さんてできないんじゃないですか」と訊き返した。

すると奥様は「老舗の漬物屋はすでに老舗の料亭と取引してるから、新しい料理屋が欲しいと言っても手に入らない。漬物の味は、料亭の味そのものやからな。よそにはおろされへんのや。かと言って祇園の路面に店を出しているような大手は観光客用やねん。化調まみれの味付けやから、まずうて食えたもんやない。とうてい料理屋で扱えるレベルのしろものやない」と。

「だから、新規の漬物屋が、いま求められてるんや! ドーン!」

ドーン!と言ったのは嘘だが、それほどのGショックを肌に感じた。
昨今の京都のグルメ界では、小規模で商う漬物の需要が急上昇しているというのは本当らしい。

京都はこのところ、町家を改装したオーガニックなおしゃれ和食店がブームとなり、林立してきている。
過当競争気味なこのシーンでは、漬物のおいしさが、他店を出し抜く武器になる。
ところが糠の臭いが手につくのをいやがり、若い調理人が漬物をつけたがらないのだとか。

「そやから、においを気にせんでいい山奥の廃工場でも改装して、糠漬けのお店をはじめたらええねん。おいしいのんができたら街へおりてきて営業したらいい。むこうはハナっから漬物が欲しいんやから、料理屋からなんぼでも注文がくるで。最近はインターネットで通販できるから店舗家賃を払う必要もない。大儲けやがな」

ごくり。

や、やります!
大儲けできるなら、たとえ火のなか糠のなか、飛び込んで見せますとも。
で、僕は何から始めればいいですか?

「まず冷蔵室の入手やな。これが必須。糠漬けは安定した冷温を保てる環境でないと大量には作られへん。それに人間ごと冷蔵庫に入って作業せなあかん。数名の人間がなかで作業できる大きな冷蔵庫があったら、すぐにでも始められるわ」

数名の人間がなかで作業できる大きな冷蔵庫……。
そんなプレハブみたいな冷蔵庫、どこに売ってるんだ。

奥様は僕の耳元で、声のトーンを下げ「インターネットで倒産情報を見ててみ。たまに室内タイプの中古冷蔵庫がオークションにかけられるから」とつぶやいた。

今後、僕が突然どっかの山奥にひっこみ、全身が妙に糠くさかったら、冷蔵庫が手に入ったんだと思ってください。

悩みの森へ足を踏み込むことをおそれるな。
暗くうっそうとしてはいるが、足元には、きれいな石が落ちているはず。
そしてその石はきっと、漬物に乗せるためにある。



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